非常食の備蓄は進んでいる。しかし「温める手段」は、まだほとんど備えられていない。 研究データと現場の記録が示す、温かい食事の重要性。
電気は最大約260万戸が停電し、復旧まで約6日間。ガスは約86万戸が停止し、一部の復旧完了は4月11日。 避難所で配給されたのは、冷たいおにぎり・パン・乾パン・バナナが中心でした。 栄養バランスも偏り、1日1人あたりおにぎり1個しか受け取れない日もあったと記録されています。
出典:奥田和子「震災下の『食』神戸からの提言」NHK出版(1996)/関西電力「阪神・淡路大震災~応急送電までの7Days」総死者数725名のうち、直接死は228名(約31%)。一方、災害関連死は497名(約69%)に達しました。 関連死の要因には「避難所における食事内容の変化」「自宅における生活での食欲不振」が明示されています。 また、報道によると被災者の中には冷たい食事が続いたことによる体調悪化が記録されている事例もあります。
出典:内閣府・警察庁の情報を基に山本潤一作成(2026年4月時点)神戸市内のある大学での官能評価実験(2025年5月実施)において、アルファ化米を温かい状態(約60℃)と常温(約20℃)で提供した場合の体感を比較しました。被験者属性:20代女性、n=24、室温23.4℃。
※各評価項目における4段階評価の加重平均値を算出し、代表値として用いた。
出典:作田はるみ・奥田和子・山本潤一ら「アルファ化米をAFBで戻した場合の食味嗜好・精神面への影響」日本災害食学会口頭発表(2025年8月)
東日本大震災・能登半島地震などでは、死因の一部に低体温症が関与していたとされています。 低体温症の予防には、衣類や暖房による「保温」に加え、体温を上げるために「食べること」、 そして体を加温することが必要とされており、温かい食事の存在は極めて重要です。 寒冷期の大規模災害では、食事の温度が生死を分ける要因となり得ます。
なお、内閣府は令和3年(2021年)12月に公表した日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する資料において、 寒冷地での震災対策の一つとして「発熱剤付き非常食等の備蓄」を推奨しています。
出典:中央防災会議 防災対策実行会議「令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応の在り方について(報告書)」2025年11月/内閣府「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の被害想定について」2021年12月一般的な災害食は「そのまま食べられるもの」として設計されています。しかし市販食品の実態を調べると——
出典:山本潤一 生活圏スーパーマーケットでの食品調査(2025年)、日本災害食学会2025年度学術大会シンポジウム発表資料(2025年8月24日)
パックご飯を湯煎調理するには、カセットこんろ・ボンベに加え、直径20cm以上の鍋・蓋・水500mLが必須です。 これらをセットで運用する場合の総重量は約3kgになります。 また10分間の沸騰で蒸発する水は、蓋なし・中火で約120mL、蓋あり・弱火でも約10mL消費します。 断水環境では貴重な水資源の消費も考慮が必要です。
簡便性
鍋・蓋・水500mLの準備が必須。道具込みで総重量約3kg。
火災・安全
裸火・CO発生。密閉空間・車内での使用は禁止。
低温環境
10℃以下でブタンガスが気化しにくく着火不能になる恐れあり。
保管
高温保管(50℃超)で安全弁作動リスク。車内保管は厳禁。
簡便性
電気調理器具・電子レンジは停電時は使用不可。EVは充電が必要。
容量と制限
ポータブル電源は容量に限りがあり、複数回の使用で消耗。
保管
バッテリーの自然放電があり、長期保管で残量が減少。
コスト
大容量ポータブル電源は数万〜数十万円のコストがかかる。
簡便性
水180mlを注ぐだけ。鍋・調理器具・湯煎用の水が不要。
安全性
裸火・高電圧なし。換気があれば屋内・車内でも使用可。
低温環境
低温環境でも発熱性能を維持。冬季・寒冷地でも対応。
保管
高温車内でも爆発リスクなし。発熱剤5年保管可能。
△ 限界:熱量調整は不可。連続使用には発熱剤の追加が必要。
※本比較は山本潤一が日本災害食学会2025年度学術大会シンポジウム(2025年8月24日)で発表した評価軸を基に作成。各熱源に特性と限界があり、用途に応じた組み合わせが有効です。
乳幼児は災害対策基本法上「要配慮者」。液体ミルクや離乳食は適切な温度が必要で、冷たいミルクを乳児は拒否・摂取量低下するという研究もあります。行政・保育施設・保護者すべてが当事者となる課題です。
避難所では高齢者の割合が高く、低体温症リスクも高い。温かい食事は体温維持・消化促進・精神的安定に寄与します。火や電気を使わず、初見でも扱いやすい加熱手段の備蓄が求められています。
管内全ての除雪作業車への搭載や、滞留が予測される高速道路の全サービスセンターへの大量備蓄など、いつ起こるか分からない状況に備えた取り組みが進んでいます。
大規模災害への緊急消防援助隊派遣では、約半数が派遣期間中に何らかの体調不良を経験。温かい食事・米飯が中心の活動食であること、個食で必要なタイミングで温められることが重要とされています。
帰宅困難者対策・従業員備蓄として導入実績があります。製造業・情報通信業・不動産業・サービス業など幅広い分野で、オフィスや工場の防災備蓄として採用されています。
政府は2026年5月、災害時のマンション在宅避難推進方針を策定。避難所のひっ迫軽減のため在宅避難が推奨される一方、電気・ガス停止下での食の手段確保が課題となっています。
能登半島地震の検証を受け、政府は「温かい食事の迅速な提供」に向けた取り組みを進めています。 国際的な避難生活の基準であるスフィア基準でも、居住空間・衛生とともに「食の質」が重視されており、 「温かい食事」は嗜好の問題ではなく、避難生活の質を守る必須要素として位置づけられ始めています。
出典:中央防災会議 WG報告書(2025年11月)/Sphere Association「Sphere Handbook」火も電気も使わず、水だけで食品を温める—— 発熱剤の力を使った加熱キットで、どこでも誰でも温かい食事を。 避難所・在宅避難・BCP備蓄・支援活動のすべてのシーンで、食の備えに新しい選択肢を提案します。
ウーケ(パックご飯)・三笠会館(レトルト食品)・日本ハム(肉製品)など、
温かい食事の標準化を目指す企業に対し、OEM供給を通じて技術提供に努めています。
一般社団法人日本災害食学会 理事・関西支部長。 東日本大震災・能登半島地震などの被災地調査を重ね、災害時の「食」の実態と課題を現場と研究の両面から分析。 発災直後に十分な食事が得られない現実に着目し、「温かい食事」の重要性を提唱している。 その課題解決のため、発災直後でも安全に温かい食事を提供できる加熱キットの開発・製造に取り組んでいる。